東京地方裁判所 昭和44年(ワ)5849号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕被告は、前記交差点で停止していた時、後方から時速四〇キロメートル以上の速度で近付いて来る訴外車をバックミラーで発見し、同車の速度と被告車との車間距離からして訴外車が追突することは必至であることに気付いたのであるから、被告車を前方または左右に緊急移動させることによつて追突の衝撃を柔げ(ちなみに、当時は深夜のことでもあり、同一方向にも交差する方向にも他の自動車は存しなかつた)、あるいは原告に追突の危険を告げることによつてその衝突に備えさせるべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つた。
〔判決理由〕なお、原告は被告の過失について前記のように主張するが、右主張は採用できない。けだし、かりに被告が停止中バックミラーを見ていたとしても、訴外車の走行状態が特に異常であつた等の特段の事情が認められない。極くありふれた本件追突事故のもとにおいては、被告が追突の具体的危険を早い時期に察知することは客観的に不可能であり右危険を察知してから追突されるまではわずかの時間的余裕しかなかつたものと推認されるのであつて、この間に自車を発進移動させることを法律上の義務としてその履行を被告に期待するのはいかにも酷であるし、警告の点についていえば、原告本人尋問の結果によると、被告は追突の直前に「追突される!」といつたというのであるが、右警告が遅すぎたとして法律上被告を非難するのもまた行過ぎであるといわざるを得ないからである。(なお、原告は、被告が追突された際ブレーキをふんでいたため、追突の衝撃で被告車がスムーズに前進せず、そのことが原告の被害を大きくした一因であるかのように供述するが、これは原告の誤解であり、一般に被追突車の前進速度が早ければ早いほど、頸部の後屈運動は烈しく被害を大きくするのであつてこの場合被告がブレーキをふんでいたのはよかつたのである。)。(倉田卓次 並木茂 小長光馨一)